仕立ての技、裏ワザ|黒絵羽織の「袖巾を足す」裄丈のお直し裏ワザ

「羽織」って、なんか優雅で素敵じゃないですか?長羽織は特にそう思いますよね。
着物にスッと羽織ると肩の線が緩やかに、より際立つ女性っぽさ。衿元胸元の衣が重なりがなんとも優美。

ところが、私はこれまで羽織そのものはほぼ着たことがないんです。なんだか自分には合わない感じがして、羽織よりも道中着や上っぱりばかりです。

けれど、1枚だけ大切にしているのが本題の黒絵羽織。母が遺してくれた古いものですが袖巾を出すお直しを数年前にしました。そんなことで更に思い入れの重なった羽織です。

今日は、この黒絵羽織についての簡単な説明と、お直し(裄出し)の仕立て技、裏ワザをちょっと書いておきたいなと思いました。

黒絵羽織について

黒絵羽織は、黒生地に「描かれた絵の柄が、縫い目で途切れることなく続いてる」ように仕立てられた羽織のことです。

同じ黒絵羽織にも「紋あり・紋なし」がある

紋のある黒絵羽織は、礼装としては着られない着物(紋のない小紋や色無地)の、「格を上げて」略礼装として着られるようにするために羽織るもの。

紋のない黒絵羽織は、普通の羽織と同じ扱い。また、黒というイメージから、ちょっと改まった感じ、きちっとした感じにしたい時にも便利な羽織。

写真の黒絵羽織は紋なしです。縮緬地でどっしりと重いです。
黒絵羽織といえば礼装的なイメージがありますが、これには「紋」がありませんから普通の羽織と同じ扱いです。

羽織の裄直し、袖巾足しの裏ワザ

羽織を好まない私が唯一これだけリメイクせず残した理由は?というと「黒地でも紋がない」から、お洒落着や普段にも着れるから。そして、長羽織とまではいかないけれど「着丈が長め」ということからです。

どっしり重い縮緬地、昔のだけあって染柄が珍しい。ぜひこの羽織のまま大切に着てあげたいなと思いました。

ところが私には裄丈が少し足りなかったのです(肩幅+袖幅=裄丈)踊りの稽古にも着る着物は裄を少し長めにしているので、それにも対応させるため。

肩幅はそのままでも大丈夫そうだったので、袖幅を出せればそれでよかったのですけど、昔のものだからか反巾が現代のより狭く、出せるだけの縫いしろがありません。

そこで、知り合いを通じて和裁師さんに相談しました。すると「羽織の衿を開いてみて、可能であれば衿から生地を取って、袖に継ぎ足せる」とのこと。
どういうことかというと、、

羽織の衿って普通は反物の巾そのままを衿巾に折りたたんで縫い込まれてます(だからあんなにカチッとして重く落ち感が美しい)そこから必要な分を切り出して袖に継ぎ足すということなのだそう。

かといってそれが無理な場合もあります。それは特に仕立て直し後の羽織だったときなど。衿を開いてみたら一部代用の布だった・・ということもあるわけです(これも仕立てやお直しの裏ワザですね)

袖幅に継ぎ足しを施す

見えにくいので写真を少し白っぽく編集しました。ご覧の通りに、袖に継ぎ足しをしてあります。実物は側でじっくり見ない限りは継いであるのもわからないです。袖幅は、33㎝から35㎝になりました。
衿から生地を切り出した分、その衿自体に何らかの影響が出ないよう、衿の中には別の生地を代用し足してあるとのことです。美しい落ち感は微塵も損なわれてはいません。

こうして、黒絵羽織は布のやりくり「繰り回し」という仕立てワザで甦りました。
昔はこうして「繰り回し」を繰り返して、一反を大切に大切にしてきた訳ですよね?仕立てのワザってすごいですよね!